2015年4月2日にサポート委員会が行ったサポート事業の報告です。千葉市立某小学校の3年生と保護者から、チョウの定時羽化に関する質問が寄せられました。サポート委員の橋本健一氏(千葉県立保健医療大学)が回答しました。以下は質問者への同氏の回答の概要です。
質問内容はチョウを一定の時刻に羽化させる方法についてですが、この方法は矢野幸夫氏が開発されたものです。その原理は蛹の変態が進んで、羽化の30分程度前に至った状態を蛹の外形的変化の様子から判断し、その時点で、6~10℃(家庭にある冷蔵庫の温度)で冷蔵して羽化の進行を止めておき、見たい時に、再び暖かい場所に戻せば、30分位の間に羽化が見られるというものです。電気スタンドなどで蛹の周辺の温度が20~30℃になるようにすれば効果的です。蛹の冷蔵中は,乾燥を防ぐために密閉できるプラスチック容器等に入れておきます。また、温度が20~30℃より低い場合でも羽化しますが、羽化の始まりが遅くなります。冷蔵して羽化を止めておく期間は、せいぜい5日間ぐらいで、それより長くなると羽化に失敗したり、蛹が死んでしまったりします。難しいのは、蛹を冷蔵する時期です。蛹の殻と蛹の中のチョウの体との間に、頭部先端から隙間ができてきますが、胸部と腹部の境目から4番目の節(第4腹節)まで隙間ができてきた時がチャンスです。この段階で冷蔵します。これを見分けるには慣れが必要です。このタイミングが遅れると、冷蔵中に羽化してしまう恐れがあります。参考として、矢野幸夫著「チョウの実験と観察 モンシロチョウ・アゲハチョウ」(東洋館)があります。絶版なので公共図書館などに問い合わせてください。
質問者はチョウの飼育・実験に関して相当の興味を持っており、既に、研究も行っています。以前にも橋本氏が個人的に相談を受けていました。チョウの定時羽化については初めてのようですが、現在、キアゲハ,ジャコウアゲハの蛹を多数保存してあり、早速確かめてみるとのことでした。また、回答内容については、よく理解できたとの感想が、メールにより寄せられました。
ナミアゲハの羽化直後の様子。左下に脱皮殻が見えます。(橋本氏提供)