第95回全国大会(広島大会)において優れた教育実践研究を発表された以下の5名が2012年下泉教育実践奨励賞受賞者に選ばれました。(氏名アイウエオ順)。
○高橋知美会員
演題:カイコの性行動を探究する
○野村浩一郎会員
演題:新指導要領に対応したメダカを使った遺伝学教材の開発
○早崎博之会員
演題:『生物基礎』における生態分野の授業
○村松聡子会員
演題:大腸菌を形質転換させて終わってしまうのは「もったいない!」
○山下浩之会員
演題:オオカマキリ( Tenodera aridifolia )の飼育がもたらす生命観の変化と教材としての価値
授賞式は2014年1月の第96回全国大会(筑波大会)での総会後に行われます。
以下に受賞者の研究の概要を紹介します。
高橋会員: カイコガの性行動(配偶行動)、特に、雄のはばたき行動を誘発する要因が雌から発せられるにおい物質(性フェロモン)であることを探究する内容で、生徒自身が仮説を立て、その検証方法を考え、さらに結果を考察して結論に導くような学習プログラムが構築されている。生徒自身に飼育を行わせ、動画の利用も効果的である。加えて、今後の課題についても認識されている。
野村会員: メダカの野生型と変異型のF1からF2卵を得、黒色素胞の観察からメンデルの法則を確認させた上で、DNAの抽出、タンパク質合成、DNAの分子構造の理解につなげる一連の学習プログラムが構築されており、多面的に扱われている。特に、鳥レバーという身近な材料からのDNA抽出は標準的教材に発展する可能性がある。プレゼンも効果的である。ただし、表題からは内容が読み取れず、実践に対する評価がない。
早崎会員: 伊豆大島三原山の1986年噴出の溶岩流の1988年と2012年の状態を示す写真資料から植生の遷移を理解する学習プログラムが構築されている。ともすれば、知識学習に終わりがちな分野であるが、自身で撮影した資料を用い、考察中心の学習を展開しており、「生態系は動く」を実感させることに効果的であり、生徒の感想も好評である。発表内容は精選が必要であり、プレゼンとしては文字情報が多い。
村松会員: 大腸菌の形質転換実験でのプレパラートを活用した実験教材の開発で、①形質転換率、②コロニーの成長、③アンピシリンの作用のテーマを設定し、目的を明確にしている。実際には実験計画を生徒に考えさせ、あえて、生徒に失敗させ、それについて考えさせることを意図的に行っている点が意欲的である。研究の限界が意識されているが、題材は生徒が分析しやすい内容で、今後の発展が期待される。
山下会員: 児童にとって他の生命を脅かす存在としてのイメージが持たれる肉食動物に対する生命観が変化することを対照群と比較して調べた研究である。小学校4年生にオオカマキリを卵から成虫まで飼育させ、飼育を行わなかった児童群に比べ、肉食動物に対する見方が変化していることを見出している。このことは食物連鎖に対する理解につながる。また、脱皮殻の測定から描いた成長曲線は中学校等での資料教材に活用できる。